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Sano ibuki
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Sano ibuki – 2nd Album『BREATH』ライナーノーツ

「今までは自分を見てほしいのではなく、自分から生まれた面白い創作物を見てほしいという感覚があったんです。
そもそも、歌うことにも消極的でしたし。自分が作った曲を誰かに歌ってもらって多くの人に聴いてもらえるなら、そのほうがいいとも思ってました。
なぜかというと、デビュー前に映像や絵を勉強していたときに自分という存在の要素をどれだけ潰しても、結果的に完成するものは自分っぽいものになるんですよね。
そこに自分自身が滲み出ているなら、その作品が影のように自分と一緒にいるものになってくれるのなら、自分名義で発表しなくてもいいとさえ思っていた。
ずっとそういう思考のもとに表現をしてきたので、言葉を使ってダイレクトに自分を曲に投影したり、それを自分で歌うことって怖いことだなとも思ってきたんですね。でも──」

幼少期から小説やゲーム、映像の空想世界に魅せられ、想像力を育んできた。
やがてその想像力を創造力へと昇華させ、ファンタジックな物語を描く音楽家となった一人の青年が、自らの生々しい実像や記憶と向き合い、自らの声でその歌を響かせる醍醐味に本当の意味で初めて自覚的になった記録としての、全12曲(CD初回仕様のみ弾き語りの“ぼっちtaracks”を3曲追加収録)。
Sano ibukiの2ndフルアルバム『BREATH』はそういう作品だ。
もっとストレートに言えば、Sano ibukiというシンガーソングライターがやっとその姿形を浮き彫りにしたと言ってもいいかもしれない。
「でも──」のあとに、彼はこう言葉を続けた。

「『STORY TELLER』(2019年11月リリースのデビューアルバム)や『SYMBOL』(2020年5月リリースの1st ep)という作品をリリースしたときに自分が美しいと思ったファンタジーの世界が、自分の思うように伝わってないという現実と直面したんです。
そうなったときに自分が描ける美しい世界のあり方そのものを見つめ直さなきゃいけない時間がすごくあって。
その中でより自分の音楽をもっとポップスにしたいという気持ちも大きくなっていって。
ポップな音楽を描きたい、そのためにはこれまで以上に世の中との接点を探していかなければならないという中で、ファンタジーとしての物語を重厚にしていくよりも、逆にその重厚さを減らしていって、自分の裸に近い感情や情景を見せていくほうが、自分が音楽で表現したいと思っている本質の部分が伝わるんじゃないかと思ったんです」

シンガーソングライターとしてのSano ibukiをSano ibukiたらしめるのは、そのボーカルでもあるということを強く実感したのがバンド編成でのライブだった。
自らの声質、声色、声量が何よりの楽曲の求心力になるということ。ライブを通して、その可能性をもっと信じてみたいと彼は思った。

「初めてバンドセットで臨んだ『翠玉の街』(2019年11月開催)、それに続く東阪ツアーの『NOVEL』(大阪公演は2020年2月に開催。
東京公演は新型コロナウイルスの影響により敢えなく中止となった)というライブを通して、『あ、自分が歌ってもいいのかもしれない』って思えたんです。
それまでは弾き語りのライブしかやってなかったから、自分の声に対してお客さんからダイレクトな反応が返ってくるという体験がすごく刺激的だったんですね。
それは僕の音楽を本当に好きでいてくれる人たちからの反応なわけで、自分の自信になったし、自分がここ(ステージ)に存在してもいいんだという喜びにもなった。
あと、ライブで歌いながら『ここの歌詞をこう変えたら、今このときの自分がここで言いたいことなる』という感覚になることがよくあって。そのときに思ったんですね。
自分自身を主人公にした曲を書いたほうが、ライブでもより『今の自分がここで言いたいこと』の濃さが増すんじゃないかと」

こうしてSanoが作り上げた楽曲に島田昌典(M-1)、トオミヨウ(M-2,5,10,11)、須藤優(M-3,4)、TENDRE(M-6)、河野圭(M-7,8)、江口亮(M-9)という複数のプロデューサーが彩り豊かなサウンドデザインを施した。
その結果、Sano ibukiの生々しい実像や記憶が投影された歌は、これまで以上にジャンルの記号性に縛られないポップな音楽像を獲得した。

80年代シンセポップのテイストが香るM-1「Genius」(テレビ東京 ドラマ25『ソロ活女子のススメ』オープニングテーマ)。
シアトリカルかつジャズ歌謡的なアプローチのピアノロックサウンドがスリリングに展開するM-3「ジャイアントキリング」。
プログラミングと伊澤一葉による生ピアノがドラマティックな叙情性を引き立て、Sanoが自らMVのディレクションも手がけたM-4「pinky swear」。
TENDREが吹くトランペットが得も言われぬ切なさを醸し出しているメロウなバラッドM-6「あのね」。
太宰治の『人間失格』にインスパイアされた夏の別離についての歌を、ライブの光景を想起させるバンドサウンドで疾走させるM-8「伽藍堂」。
このように、歌としてリアルであることと音楽的にフレッシュであることを同時に突き詰めた楽曲群が並んでいる。
あるいは、映画の主題歌という責務と対峙しながら自らの歌の現在地を真摯に映し出したM-7「おまじない」(アニメ映画『ぼくらの7日間戦争』主題歌)とM-11「紙飛行機」(映画『滑走路』主題歌)。
さらに、“これまでのSano ibukiの顔”を担っていた楽曲を“BREATH ver.”としてブラッシュアップしたM-9「スピリット」(アニメ映画『ぼくらの7日間戦争』主題歌)とM-10「emerald city」。

多くの楽曲でSano ibukiは埋めようのない孤独を歌っている。ときに死の気配を滲ませながら。
それでも、彼の歌は明日を想像し創造することをあきらめていないことが、本作を聴くとよくわかる。
そのことを象徴しているのが、本作で最も古くから存在している楽曲であり、自分と東京を照らし合わせながら、誰にも届かない歌と微かな望みをはらんだおぼろげな未来を弾き語るラストのM-12「マルボロ」だろう。
アルバムに冠した『BREATH』とは、“ibuki”を表したセルフタイトルでもある。
そして、始まるSano ibukiの第2章。

「ここからが本当に第2章ですね。
今まではゼロからイチをどうしていくかをすごく考えていましたけど、ここからはイチからどうしていくかを考えていく段階に入ったと思います。
自分の中で一番リアルな感情が孤独だから、そういう意味でも孤独が自分のアイデンティティであり続けると思うんですね。
でも、自分の音楽を世の中に届けるときにもう一人はイヤなんです。
それはこのアルバムでいろんなプロデューサーの方に参加していただいて一緒に曲を作り上げていく中でも思ったし、バンド編成でライブをしているときにも思うし、自分でディレクションした『pinky swear』のMVの編集をしているときにもやっぱり誰かと作品を作るほうが面白いなと強く感じたから。
名刺のようなアルバムタイトルでもあるし、前作以上に自分自身に重くのしかかっているアルバムでもあるから、どこかでこれをリリースする怖さもあって。
でも、それ以上にこのアルバムを経て自分がどういう曲を作るのか楽しみです」

たったひとりで始まった音楽人生のゼロからイチを経て、イチから未知数のこれからを、Sano ibukiは多くの表現者と共鳴しながら紡いでいく。

(三宅正一)

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