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Sano ibuki – 2nd Mini Album『ZERO』ライナーノーツ

とても勇敢な作品だ。
それは、Sano ibukiという音楽家が、ここまでタフな気概を湛えるようになった証明でもある。
時間をかけた自問自答を経て作り上げたこのポップスを、もっともっと多くの人に届けたいという渇求が彼を力強く前進させようとしている。
2021年の七夕にリリースした2ndフルアルバム『BREATH』から1年5ヶ月。
全6曲が収録されたSano ibukiの2ndミニアルバム『ZERO』が、ここに完成した。

「今回、『ZERO』を作るにあたって、自分自身がここからまた裸一貫で音楽を表現していく覚悟を持ったんです。『BREATH』をリリースして、一旦、自分の中にあるリアルな感情を作品に落とし込んでいくというやり方はある程度完成した気がしていたんです。それで、次のSano ibukiとしてどんな音楽作品を作るのがベストなのかということを悩む時間がかなりあって。その潜伏期間はけっこう長くて、半年くらいありました。その時間の中でたどり着いたのは、あらためて自分自身をより濃く音楽に反映させていこうという決意でした。そういう意味での裸一貫でもあるんです。『BREATH』までは超個人的なことを違う言葉に言い換えて歌詞に入れていくかというソングライティングの方法論をとっていたんですが、この『ZERO』で僕がやりたいと思ったのは、超個人的なことをそのまま描くことから逃げないこと。『BREATH』ではそれが少し緩和されたところがあったけれど、僕は作詞において、例えば〈愛してる〉というワードをあまり使ってこなかったんですね。〈愛してる〉というワードを他の言葉に置き換えて、直接的じゃない表現だからこそ浮かび上がる美学を追求しているところがありました。でも、〈愛してる〉という感情があるならば、〈愛してる〉と言い切る強さを『ZERO』では欲しいと思ったんです」

なるほど、たしかにその裸一貫の覚悟は、各曲の端々から伝わってくる。

「とにかく空が見える曲にしたかった。『高良くんと天城くん』というドラマの男子高生が男子高生を好きになるストーリーと向き合ううえで、ただピュアなラブソングにしたくなくて、シビアな現実や軋轢を感じさせるワードも散りばめました」という、荘厳なムードの冒頭からキラキラしたポップソングが形作られ躍動していくM1「twilight」(MBSほかドラマシャワー「高良くんと天城くん」オープニング主題歌)。

「この曲をバンドアレンジにすることから今作『ZERO』の制作がスタートしたので、楽曲制作から離れていた自分のマインドを戻してくれた曲でもあります。アレンジャーの須藤優さんと『さまざまな状況や感情を包括できるような1曲にしたい』という話をして。それはポップスとしての強さを意識したという意味でもあります」という、王道のJ-POPとしての佇まいもありつつ、デジタルクワイアのような現代ポップス的な意匠も施されているのが印象的なM2「プラチナ」(ASAHI WHITE BEER タイアップソング)。

「アレンジャーの小西遼(CRCL/LCKS・象眠舎)さんとおもいっきり音楽で遊びながらできた曲です。今回、小西さんとイメージの根幹さえも共有して一緒にポップスを作るという実験を初めてしてみたんです。アレンジを小西さんと遊ぶようにして組み立てることができたからこそ、それと相反するように歌詞は遊びとは思えないようなシリアスなワードで構築してこの世界を包み込むような内容にしたいと思った」という、Sano ibuki流の独創的なチェンバーポップというイメージが浮かぶM3「夢日記」。

「みんなどこかでこの真夜中が終わらないようにと夜を求めるときがあると思うんです。その逃げ場のような場所がここにあるよって、おこがましくも僕から言えるような曲にしたかった」という、この厳しい現実からあなたがひとときでも逃れられるようにと願い、真夜中の深淵なシェルターへといざなうM4「終夜」。

「『ZERO』という作品全体を考えたときにアグレッシブな曲を作りたいと思って。ここまでアグレッシブな曲を作れたのは、ライブの経験も大きいと思います。歌詞は一人の人間として今の世の中に対して思っていることが色濃く反映されてますね。『その手を取るなら、あなたも一緒に地獄まで落ちる覚悟はあるんですか?』って、そういうことを歌っている曲ですね」という、シニカルな筆致とアグレッシブなサウンドで現代社会にアンチテーゼを撃つM5「アビス」。

「アニメ『惑星のさみだれ』のエンディングテーマではありますが、今の僕が強く提示したいメッセージを刻みつけている楽曲です。『もし本気で僕の音楽に手を伸ばしてくれるなら、俺はあなたと心中するつもりでその手をつかむぜ』ということを言い切るような曲」という、突き抜けたバンドサウンドで本作の核心を堂々と掲げるM6「ZERO」(MBS/TBS“アニメイズム”枠ほか『惑星のさみだれ』エンディングテーマ)。

そして、ここからSano ibukiは本作を体現するためのライブへと向かう。
それがゼロからイチへと進む道となる。
2023年1月21日に開催するワンマンライブ「Sano ibuki Special Live “ONE”」は、彼がここから歩む“覚悟を持ったポップス”を創造する音楽人生の試金石となるに違いない。

「これからライブの演出においてもやりたいことがいっぱいあって。そういう意味でももっと大きな存在になりたいんです。いつかこの景色を自分のライブでも見たいと思う原風景があって。それは、中学生のときに見た学校の体育館で。果てしなく広く遠く見えた記憶が忘れられないんです。この中に100万人くらい入るんじゃないか?と思ったあの景色の記憶を、いつか自分の音楽で超えたいと思ってます」

(三宅正一)

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